第ニ話 蘇生
ドクター・A。彼はいつの間にかそう呼ばれるようになった。髪をぼさぼさに伸ばし、その素顔はよく見えない。各地を転々とし、向かう先で消えかかった命の灯火を救ってきた外科医。
本名、経歴、治療方法全てが謎に包まれている不思議な男。
それゆえ、彼は「ドクター・A」と畏敬の念をこめて呼ばれるようになっているのである。
特に経歴については物議を醸し出している。元犯罪者、無免許医師、実は宇宙人で、この星では見つからない不思議な物体を埋め込んでいるのではないかと噂するものさえもいたが、真相ははっきりとしていない。
そのドクター・A本人は次の休息地を求め、ニューフリダシティまでやって来た。先ほどまで、バイオポケモンとハンターとの交戦があったのか、あちこちにゴミや瓦礫が散乱し、人の気配はない。
ふと一人の少年が病院に担ぎ込まれるところを見た。よく見ていなくてもわかるほどの出血で、かなりの重症であることは素人でもわかる。そして、身なりからハンターであることは間違いないだろう。
ここから考え出される結論はただ一つ。
「仕事・・・・・・かな?」
白衣を翻し、病院へ駆けていった。建物は夕陽に照らされオレンジ色に染まっていた。
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入り口でもめる受付と不審な白衣男。
「早くここを通してくれ! 人の命が懸かっているんだぞ!」
すごい剣幕で怒鳴りつけるドクター・A。当然のことながら、こんな怪しい男を二つ返事で信じるような病院は世界中探してもない。たとえ凄腕の医師だとしても、無免許という噂がある以上、安易に通すこともできない。
受付嬢はカウンターから離れ、上司と思われる男にひそひそと相談をしている。
「ええい、もう行くぞ! スカタンク、『えんまく』を張れ!」
勢いよく飛び出したスカタンクが尾をピンと上げて、煙を噴出す。その間に、ポケモンを回収し怪しげな白衣男は奥へと向かっていった。
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勢いよく扉が開く。ぼさぼさ頭の白衣男。ギグがこの不審な男の前に立ちはだかる。
「何者だ、お前は?」
息を切らしながら自己紹介する。
「ど、ドクター・Aだ。もう時間がない。今から彼の息を吹き返してみせる!」
半ば強引にコメットの面々を押しのけ、レイジを乗せた担架と共に部屋から出て行った。
廊下をすごい勢いで進む担架。フェルが白衣男に問う。
「待て。そいつはバイオドラピオンの毒にやられているんだ。助かるはずが・・・・・・」
響く靴音が止まる。患者の容態を確かめ、その後にドクター・Aが振り返る。
「大丈夫だ。この患者はまだ助かる。ただ、これだけは約束してほしい。決して中を見ないように!」
最後のそう言い残し、男は治療室の扉を開き中へ消えていった。
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夜になってもニューフリダシティは散らかったままである。バイオドラピオンによるものか、あちこちで生き物だったものがごろごろ転がっている。もっとも彼にとっては餌でしかない。生きるための捕食。ただ、祖に規模や残虐性が並み外れなだけ。
ゆえに彼に悪気はまるでない。食事のための殺生が罪にならないように。それゆえにタチが悪いことこの上ない。
さて、元々兵器として開発されたバイオポケモンの中には血の臭いに敏感なものもいる。臭うところ即ち戦場であるからだ。そしてその臭いに誘われ、1本角の怪物がふらりとやってきた。
紫色の体は闇夜に溶け込む。強いものの気配を求め、町を徘徊する。グルルとのどが低く鳴る。
夜空に響く咆哮。それは、ニドキングの形をした生体兵器であった・・・・・・
招かれざる客は更なる来訪者を呼び、それゆえ町に人の気配がしないのだ。いつ怪物に襲われるか、その恐怖と隣り合わせに、人々はおびえながら夜が明けるのを待っていた。
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集中治療室にて、一人の少年を生き返らせんと医師があの手この手を試していた。
「やはり・・・・・・『これ』を使うしかないようだ」
ドクター・Aの腕が鮮やかに動く。わずかながら患者の頬に赤みがさした気がした。
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永い眠りから覚めたらそこは病室だった。どうやら御霊はこの世に留まったらしい。最初に目にしたのはぼさぼさ頭の男。
「よく頑張りましたね。あなたは一度心肺を停止させていましたが、この通り、見事によみがえりました」
バイオドラピオンに倒されたときの映像が脳裏に浮かぶ。ノイズまじりの映像でその後ここに運ばれたということまでは見えていたが、それからのことは覚えていない。
ともあれこうやって命を繋ぐことには成功している。レイジは体中を見回す。串刺しになっていた胸部は不思議と痛みはなく包帯が幾十にも巻かれていた。痛みらしい痛みは見当たらず、本当にバイオドラピオンに殺されたのかもわからないほどだ。
おそらくこの広い世界でも生き返ったことがあるのはレイジくらいだろう。痛みもないので起き上がって歩き回ることもできる。
「体が動くなら少しでも生活に復帰できるようにリハビリしていかないといけませんね。感心感心!」
トコトコと外に出て、フェルとギグに元気な顔を見せる。仲間が自分の無事を心底喜んでいるところ。これが次に見たものである。
「すごいな。アンタ何者だよ? もうピンピンしてる!」
フェルが子供のようにはしゃぐ。ギグも感情にこそ出ていないが心のそこから歓喜しているようだ。
「うちのレイジをすまなかったな。さあレイジ、お前からもお礼しろ」
だがドクター・Aの顔は暗い。ギグとフェルに、いや誰よりもレイジから目を逸らしているように見える。
「その、なんと言うか・・・・・・、あなた方はハンターですよね?」
「ああ、間違いない。うちはハンター『コメット』だ。奇跡を起こしたんだ。金ならいくらでも払うぞ?」
代金の話を持ちかけたのかと思い、ギグは気前のよいことを言う。しかし医師の顔が晴れることはなかった。
「いえ、そういうことじゃなくて。その、手術は失敗しているんです。お金など頂けません」
「どういうことだ。ハッキリ言わないか」
いぶかしむコメットのリーダー。
「その・・・・・・、レイジ君はポケモントレーナーでしたね? 残念ですがそれは廃業してください。」
この場が一瞬で凍りついた。レイジがポケモントレーナー廃業。それはつまりバイオドラピオンへの復讐が果たせないということになる。
「ギグさん・・・・・・」
「何も言うなレイジ。お前を放り出すようなマネはしない。約束する!」
「違う!!」
あらん限りの大声でギグに突っかかる。レイジはきびすを返すと自分のモンスターボールを探し出し、ペラップを出そうとした。
「!!?」
モンスターボールに触った瞬間、全身に走る激痛。レイジは思わずボールを取り落とした。再びボールに手を伸ばすが、触れた瞬間にまた激痛が走る。再びボールを落としてしまった。
「嘘だ! 何かの間違いだ!」
再度ボールを握る。激痛にも耐えてボールを握る。
「出て来い・・・・・・! ペラ・・・・・・」
激しさを増す痛み、腕が千切るのではないかという痛み。まるで体がモンスターボールを拒絶しているかのような感じである。また落としそうになるボール。それに耐えしっかりと右手でボールを握るレイジ。
「レイジ君、もうやめるんだ!」
慌て、ドクター・Aが駆け寄る。後ろにはコメットのメンバーもいる。
「君の体ではもうモンスターボールに触れることさえできない。無茶をしたらせっかく助けた命をまた落とすことになる」
レイジはがっくりと肩を落とした。
to be countinued...